令和4年度司法試験再現答案 民事系

 

民事系は、162点。700番台。民法・商法がAで、民訴Cでした。

 

民法:3534字>

第1 設問1(1)

1(1)Cは登記名義者Aに対して、所有権(民法(以下、法名省略)206条)に基づき、甲土地の引渡を請求していると考えられる。Cは甲土地の所有権取得について、前主Bとの売買契約(555条)である契約②を主張することが考えられる。

(2)これに対して、Aは、契約①は偽造されたものであるから契約①は無効であり、契約②当時、Bは無権利者であるから、契約②は他人物売買(561条)であって、物権変動は生じないため、Cは甲土地の所有権を取得していないと反論することが考えられる。

(3)これに対して、Cは、自己が94条2項の「第三者」にあたり保護される結果、甲土地の所有権を取得すると再反論することが考えられる。では、Cの主張は認められるか。

ア まず、契約①において、AB間の通謀は存在しないから、同条を直接適用することは出来ない。もっとも、同条の趣旨は、虚偽の外観を作出した本人の帰責性の下、外観を正当に信頼した第三者を保護する点にある。そこで、通謀がなくとも、①虚偽の外観が存在し②虚偽の外観作出につき本人の帰責性が有り③外観に対する正当な信頼が認められる場合には、同項の類推適用により、「第三者」は保護されると考える。

イ 本件において、契約②時点で、甲土地の所有権移転登記はB名義であった(①充足)。②について。確かに、AはBの要求に応じて、所有権移転登記に必要となる書類等を交付しているからAに帰責性があるとも思える。しかし、不動産取引のないAが、抵当権抹消登記手続に必要であるというBも求めに応じて、必要書類を交付したことは、正当な理由に基づくものである。また、虚偽の登記がなされてから、上記請求がなされたのは、僅か1か月にも満たないため、虚偽の外観の存在を知った上で、あえて放置していたとは言えない。よって、Aに帰責性は認められない(②不充足)。

ウ よって、本件において、同項を類推適用出来ず、Cは「第三者」に当たらない。

よって、Cの再反論は認められず、Aは上記主張を拒絶出来る。

第2 設問1(2)

1 請求1について

(1)Dは登記名義人Cに対して、所有権に基づき、請求1を主張していると考えられる。甲土地所有権の取得原因は、契約3である。

(2)ア これに対しCは、AB間の契約④に基づき、Bが甲土地の所有権移転登記を具備したことで、Dは所有権を喪失したと反論することが考えられる。

イ これに対しDは、Bは「第三者」(177条)に当たらないため、登記なしでも、所有権を対抗出来ると再反論することが考えられる。では、Dの再反論は認められるか。「第三者の意義が問題となる。

 この点、同条の趣旨は、不動産取引について、登記という画一的基準に基づいて、取引の安全を保護する点にある。そこで、「第三者」とは登記の欠缺を主張するに正当な利益を有する者をいうと考える。そして、自由競争原理の下、単なる悪意者は「第三者」に含まれるが、自由競争原理を逸脱する背信的悪意者は信義則(1条2項)上、登記の不存在を主張する正当な利益を有せず、「第三者」に当たらないと考える。

 本件において、Bは契約④の時点で、契約③の存在を知っているから悪意者である。また、契約④を締結したのは、Bがかねてより恨みを抱いていたDに損害を与えるためであったから、背信性も認められる。よって、Bは、背信的悪意者だから、Dは登記なしでも、所有権をBに対抗できる。

 よって、Dの再反論は認められる。

(3)どうだとしてもCは、契約⑤に基づき、甲土地の所有権移転登記を具備したことにより、Dは所有権を喪失したと主張することが考えられる。ではかかる主張は認められるか。

ア まず、Bは、Dとの関係で登記を対抗出来なくなるに過ぎず、無権利者ではないから、契約⑤によって、物権変動は生じる。そこで、Cが「第三者」に当たらない限り、Cの主張は認められると考える。

イ 本件において、Cは、契約③の存在につき悪意であるものの、Dを害する意図はないから、背信性は認められない。よって、Cは「第三者」にあたるから、Cの上記主張は認められる。

(4)以上、Dは所有権を喪失しているので、請求1は認められない。

2 請求2について

(1) Dは「転得者」Cに対して、DのAに対する甲土地の所有権移転登記手続請求権を被保全債権として、詐害行為取消権(424条の5)に基づき請求2を主張していると考えられる。以下、要件充足を検討する。

(2)ア (ア)上記被保全債権は特定物売買における登記請求権であって金銭債権ではないものの、最終的に同債権が履行不能となれば、損害賠償請求権という金銭債権になるから、同条の被保全債権となる。

(イ)保全の必要性について、甲土地はAが所有する唯一のめぼしい財産であって、契約④にとって、無資力となったといえるから、保全の必要性も認められる。

(ウ)「債務者が債権者を害することを知って」(424条1項本文)いたか、という悪意要件について。悪意については、債務者の客観的事情と主観的事情とを相関的に判断すべきと考える。

 本件では、Aは唯一の目ぼしい財産である時価4000万円の甲土地を、僅か半額の2000万円でBに売却(契約④)しているから、客観的な詐害性は強い。そこで、主観的には、詐害性を単に認識していれば、悪意になると解するところ、Aは、契約④の売却価格が時価の半額であることを認識している。よって、悪意性は認められる。

(エ)「転得者」Cの悪意(424条の5第1号)について。(ウ)同様、Cは積極的な詐害意思までは不要で、詐害性を認識していれば足りると解するとこと、契約⑤時点において、Cは、契約③の存在を認識しているから悪意性が認められる。

イ これに対して、Cは、「受益者」Bが契約④時点で、「債権者」Dを「害することを知らなかった」と反論することも考えられるが、BはDに損害を与えるために契約④を締結しており、かかる反論は認められない。

(3)以上、請求2は認められる。

第3 設問2

1 FはGに対して、契約⑥(601条)に基づき、請求3を主張していると考えられる。

2 これに対して、Gは、目的物の乙建物がHに譲渡されたため、賃貸人の地位もFからHに移転し、かつ、FはGに賃貸人の地位を対抗出来なくなるから賃料支払を拒絶すると反論(主張ア)していると考えられる。これは、賃貸人の目的物を使用収益させる義務が没個性的なものであり、かつ、不動産の所有者が賃貸人となる方が、賃借人保護に資するという根拠に基づくものである。では、かかる反論は認められるか。

 乙建物は、建物でありFからGへの引渡がなされているから「借地借家法31条」の対抗要件を具備している。よって、その譲渡(契約⑦)により、賃貸人の地位はFからHに移転する(605条の2第1項)。

 契約⑦に基づき、H名義の所有権移転登記になされているから、HがGに賃貸人の地位を対抗出来る結果、FはHに賃貸人の地位を対抗出来なくなる。

 よって、Gの反論は認められ得る。 

3 これに対して、Fは、契約⑦は譲渡担保契約であって、同契約では直ちに乙建物の所有権移転は生じないという再反論(主張イ)、及び、賃貸人の地位につき、HF間でFに留保する旨の特約(605条の2第2項)があったから、その地位はHに移転しないとの再反論(主張ウ)することが考えられる。かかる主張は認められるか。

 主張イについて。譲渡担保も、取引安全を観点から、形式を重視すべきであり、譲渡担保を原因とする移転登記も認められている以上、契約⑦によって、物権変動は生じている。よって、主張イは認められない。

 主張ウについて。使HF間で、債務αの弁済期経過前までは、Fが乙建物使用収益するという特約があることから、賃貸人の地位は、弁済期まではFに留保され、Fは同期間の賃料請求権を有する。他方、弁済期後に関しては、譲渡担保目的物の使用収益権を喪失するので、賃料請求権は、Hに存する。

 よって、弁済期経過後である令和5年6月分の賃料請求権はHに存する。また、経過前の同年5月分の賃料請求権はFにあるものの、弁済期経過によって、未払賃料請求権付きの賃貸人の地位が、Hに移転するから、同月分の賃料請求権もHに存する。

 よって、主張ウは認められない。

4 よって、請求3は認められない。

第4 設問3

1 Mは、契約⑧に基づき、Kの相続人であるLに対して、請求4を主張していると考えられる。

2 これに対して、Lは、契約⑧は、贈与者の死亡を停止条件とする贈与契約であるから、死因贈与として、遺贈に関する規定が準用される(554条)結果、本件の自筆証言遺言によって、撤回されたと反論することが考えられる(主張エ)。

かかる主張は、1022条、1023条によって、認められる。

以上

 

<商法:3291字>

第1 設問1

1 Dは甲社に対して、①一連の経緯により取締役を失ったことは実質的な解任であって②かかる解任には「正当な理由」(会社法(以下法名省略)339条2項)がないため③損害賠償を請求出来ると主張することが考えられる。同主張が認められるか、以下検討する。

2 (1)①について。一連の経緯は、会社法上、適法な手続によって定款変更がなされた上で、取締役の任期満了後の選任決議が否決されたに過ぎないのであるから、形式的には解任に当たらないという見解も考えられる。

もっとも、甲社のように親族関係者のみで、特別決議が可能な2/3超の株式を保有している場合には、株主が濫用的に議決権を行使して、特定の取締役を退任させたと言える場合には、かかる退任は実質的に解任にあたると考える。

本件において、甲社の株主構成は、A及びその親族のBとCによって8万株/10万株を保有しているから、2/3超の株式を保有している。

また、定款変更等の一連の経緯は、Dが、Aらの東北地方進出という経営方針に反対し、意見対立が起こった僅か1か月以内に行われ、Dのみが取締役からの退任を余儀なくされている。そうすると、一連の経緯は、Aらが経営方針に反対するDを退任するために濫用的に議決権を行使したといえ、上記経緯は、実質的な解任にあたるといえる。

(2)②について。

ア 「正当な理由」の意義が問題となるところ、同項の趣旨は、株主による取締役の解任の自由を保障する一方で、取締役の任期に対する期待を保護する点にある。そこで、「正当な理由」とは、取締役の心身の故障(a)や著しい経営能力の欠如(b)を意味すると考える。

イ 本件において(a)の事情は認められない。

(b)について。Aらの東北進出は事業拡大策であって、かかる経緯事項を反対することに合理的理由がなければ、著しい経営能力の欠如が認められうるが、本件において、Dが同方針に反対したのは、2年連続営業損失を計上している甲社の経営状態を踏まえて事業拡大をすべき状況にないことを理由にするもので、合理的理由に基づく反対といえる。よって、(b)も認めらない。

よって、「正当な理由」は認められない。

(3)③について。

では、損害賠償額はいくらか。上述の同項の趣旨から、取締役の任期まで役員報酬が損害賠償額になると考える。

本件において、Dの取締役の地位は、乙出身者が就任する慣習が有り、その任期は以前から4年間という運用がなされていた。また、就任当時57歳だったDは、かかる慣習を理解した上で、Aに対して、61歳まで取締役をする方が安定した収入が得られるので、引き受ける旨を伝え、Aもこれを承諾している。そうすると、契約の内容としては、Dの取締役の任期が4年間だったといえる。よって、Dは、残り2年間の役員報酬960万円(40万円/月×24か月)を損害賠償請求することが出来る。

第2 設問2

1 「株主」(847条1項、2項)Jは、「役員等」Gに対して、423条1項の損害賠償責任を追及していると考えられる。では、Gに同条の損害賠償責任が生じ、Jの主張は認められるか。

2 423条1項の損害賠償責任が生じているか以下、要件検討する。

(1)任務懈怠について

 取締役Gは、会社に対して善管注意義務(330条、民法644条)を負うところ、本件事業譲渡契約締結についての一連の経緯が、同義務に反するか。

ア この点について、経営判断事項に関しては、会社の健全な成長のためには一定のリスクを取らなければならず、常に損害賠償責任を認めると取締役が萎縮をして、妥当ではない。そこで、通常の経営者を基準として、経営判断の過程と内容において著しく不合理である場合にのみ、任務懈怠が認められると考える。

イ まず、事業譲渡は、会社の組織再編に関するもので、経営判断事項に該当する。

次に、本件においてデューデリジェンス(以下、「DD」という)を行わずに、事業譲渡を実行したという過程は著しく不合理といえないか。

この点について、確かに戊社の売上総利益の50%が甲社との取引に由来すること、その甲社の事業に大きな影響を及ぼすのが乙の日用品事業であること、戊社の60%親会社が甲社であることなど、三社の密接な関係性から、乙社の日曜品事業を救うことは、戊社にとってもメリットがあるといえる。そして、乙社は法的整理も検討している状況で、親会社の代表取締役Aに迅速な対応を求められたことから、DDをせずに、事業譲渡を実行したことには一定の合理性があるとも思える。

 しかし、Gは、金融出身で事業譲渡等の専門家ともいえるHから、同様に専門家の弁護士の意見を踏まえた意見としてDDを行った方が良いという指摘を受けている。また、乙社は別の譲渡先を探すことも視野に入れており、その譲渡先で経営再建する可能性も有ったといえる。さらに、AからGに対する迅速に進めてほしい旨の発言は、Gの取締役再任との交換条件の下になされたものであって、Gはかかる私情を判断過程に持ち込むべきではない。

 よって、通常の経営者であれば、本件事業譲渡に際し、DDを実施しているといえるものの、Gはこれを怠っており、経営判断過程において著しく不合理であるといえる。

 よって、Gに任務懈怠が認められる。

(2)Gは、Hからの助言を受けているから、少なくとも過失が認められる。

(3)本件事業譲渡によって、損失が生じている。

(4)因果関係について。DDを実施していれば、少なくとも本件事業譲渡の対価は1000万円以下となるはずだったのであるから、実際の対価である4000万円との差額3000万円について、因果関係が認められる。

3 以上、Jの主張は3000万円の限度で認められる。

第3 設問3

1 戊社と乙社とは別法人であるから、丁銀行が戊社に対して、乙社の残債務の弁済を請求することは原則認められない。

2 もっとも、本件事業譲渡契約が「事業の譲渡」(21条以下)にあたり、かつ、詐害事業譲渡(23条の2)にあたれば、残存在権者たる丁は、上記請求をすることが出来る。

(1)「事業の譲渡」該当性について。

 「事業の譲渡」とは、①一定の事業目的の下、組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、②譲受会社がこれを事業活動として承継することを意味すると考える。なお、競業避止義務は、効果であって要件ではないと考える。

 ①について。譲渡目的の日用品事業は、一定の事業目的の下に組織化されており、顧客誘引力を有する登録商標Pと共に、譲渡されている。また、同事業の簿価は、資産6000万円の内4000万円を占めるから重要な一部といえる(①充足)。

 ②について。戊社は登録商標Pを使用した日用品の販売を継続しているから、事業活動の承継も認められる(②充足)

よって、本件事業譲渡は「事業の譲渡」に当たる。

(2)詐害性について。

 同事業の資産簿価は4000万円であるにもかかわらず、僅か半額の2000万円が譲渡対価されているから、詐害性が認められるとも思える。

 もっとも、乙社は非公開会社であって、事業価値の算定は困難であるから、事業価値は、専門家の調査結果を踏まえた価格を基準とすることも許されると考える。

 本件において、専門家は、同事業は簿価通りの資産価値がないと主張している。また、乙社は早く現金を取得したいという意図も有しており、現金化の割引も考慮すべきであるから、対価が2000万円であったとしても、詐害性は認められないといえる。

(3)よって、上記主張は認められない。

3 そうだとしても、22条1項の類推適用により、上記主張が認められないか。

(1)本件では「商号」の続用はないから、同項の直接適用は出来ない。

(2)もっとも、同項の趣旨は、債権者は事業譲渡により事業主体の変更を知ることが出来ず、知ったとしても、譲受会社が債務引受をしていると期待することから、かかる期待を保護する点にある。そこで、商標が事業主体の表示として用いられている場合には、同項を類推適用出来ると考える。

(3)本件において、戊は、顧客吸引力のあった商標Pを使用して、日用品の販売を継続していたので、同項を類推適用出来る。よって、上記主張は認められる。

以上

 

<民訴:2559字>

第1 設問1

1 課題1

(1)被告が乙となる見解

ア 当事者は、人的裁判籍(民事訴訟法(以下、法名省略)4条)の基準ともなり、迅速かつ確実に確定する必要がある。そして、訴えの提起後において訴状が基準として明確であり、また最も確実である。そこで、当事者確定の基準は、訴状の表示を基準とすべきと考える。

イ 本件において、訴状に被告として記載されているのは「Mテック」である。同訴状によって本件訴訟が提起された令和3年4月20日において「Mテック」は乙である。また、訴状に付属書類として添付されており、訴状と一体となっているともいえる代表者事項証明書は乙のものであった。

ウ よって、被告は乙である。

(2)被告が甲となる見解

ア 上記の見解を基礎としつつ、具体的妥当性を図るべく、表示された内容を解釈する上で、当事者の合理的意思も踏まえて、実質的な表示内容を基準とすべきと考える。

イ 本件において、確かに表示は乙である。もっとも原告の合理的意思が反映されている「請求の原因」を見ると、原告が被告としているのは、令和2年4月10日に本件事務所につき賃貸借契約を締結し、本件事務所を同契約に基づいて引渡をし、同契約を解除する旨の内容証明郵便を通知した「Mテック」である。そして、いずれの日においても「Mテック」は甲であった。

 また、訴状において「Mテック」と表示し、乙の代表者証明事項を添付したのは、商号変更がなされたのが、訴状を提出する僅か19日前に過ぎず、商号変更されたことに気づかずに、乙を表示させたことが推測出来る。

ウ よって、被告は甲である。

2 課題2

(1)自白の成立について

ア 第2回口頭弁論期日におけるAの陳述に、口頭弁論期日又は口頭弁論準備期日における自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述たる裁判上の自白が成立するか。

イ Aは、乙の法定代理人(37条、28条、会社法349条4項)であり、当事者能力は認められる。また、同陳述は第2回口頭弁論でなされている。

 次に裁判上の自白の対象事実が問題となるが、勝敗に直結する事実にこれを適用すれば十分であり、間接事実や補助事実にこれを適用すれば自由心証主義(247条)を制約し妥当ではないから、主要事実がその対象になると考える。また、自己に不利益な事実とは、基準としての明確性から、実体法上相手方が立証責任を負う事実をいうと解する。

 本件訴訟の訴訟物は、賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権である。同訴訟物における主要事実は、(a)賃貸借契約の合意(b)合意に基づく目的物の引渡(c)終了原因事実である。そして、これらの事実は、目的物の返還を求める原告が実体法上、立証責任を負う。本件において【事例】3における(1)(2)(3)がそれぞれ(a)(b)(c)に対応しており、Aはこれらの事実について、これらを認めて争わない旨の陳述をしている。

ウ よって、裁判上の自白が成立する。

(2)自白の撤回について

もっとも、第3回口頭弁論期日において、Aは自白を撤回しているが、裁判所はどう取り扱うべきか。

ア 自白の撤回は原則として認められないと考える。なぜなら、裁判上の自白は、当事者間に争いのない事実は、そのまま判決の基礎としなければならないという弁論主義第2テーゼによって裁判所拘束力が生じ、そのことから不要証効(179条)が生じ、そして、かかる有利な地位を得た当事者の期待を保護する必要性や禁反言の観点から、不可撤回効が生じるからである。

イ もっとも、かかる不可撤回効の根拠が妥当しない場合には例外的に自白の撤回は認められると考える。

本件において、自白の撤回が認められない場合、Xは請求認容判決を得ることになるが、かかる債務名義は乙に対するものであるから、実際に明渡を請求したい甲に対しては、強制執行をすることは出来ない。そうすると、Xは本件訴訟の請求認容判決を得たとしても、自己の目的を実現することは出来ないから、法的保護に値する既得の地位を得ているとはいない。また、かかる状況で、禁反言を認めない必要性もない。

よって、裁判所は、例外的に自白の撤回を認めて、審理を続行すべきである。

第2 設問2

(1)第1について

 本件において、訴訟状態を利用することは出来る。

(2)第2について

ア 訴訟の複雑化を招かなければ、同問題は妥当しない。

イ 本件において、甲における契約を締結した当事者は、新訴の重要証人は、旧訴の当事者であるAと同一人物であるから、訴訟の複雑化を招くことはない。

(3)第3について

 ア 軽率な提訴等が誘発するおそれが無ければ、同問題は妥当しない。

イ 本件では、Aが、甲の商号を変更したことによることが原因であるが、かかる変更は、AがXの訴えを空振りにさせて時間稼ぎをするために濫用的になされたものであって、Xに帰責性は乏しく、軽率な提訴等を誘発するおそれは無いといえる。

(4)第4について

 ア 新訴の提起時期が訴訟遅延を招かなければ、同問題は妥当しない。

 イ 本件では、主観的追加的併合の時点では、新訴の重要証人であるAの証人尋問はなされておらず、また、その他重要な証拠物である賃貸借契約書等の書証の取調もなされていない状況である。よって、旧訴の証拠調べが無駄になるようなことはなく、本件の追加は、訴訟遅延を招かない提訴時期といえる。

第3 設問3

1 「文書」とは、その文言から、紙媒体に意味のある文章が記載されたものを意味すると考える。これは、221条1項が「文書の表示」を明示することは義務付けていること、規則143条1項で「原本」の提出を義務付けていることとも整合性を有する。

 そうすると、USBは紙媒体のものではないから、「文書」には該当しない。

2 そうだとしてもUSBについて231条を適用出来るか。

 同条の趣旨は、文書ではないものであっても、一般的に意思表示や意思確認等の情報を記録する媒体として広く利用されており、かつ、文書同様に証拠としての重要性が認められるものについて、第5節の規定を準用する点にある。

 本件において、USBは、契約書等、意思表示の内容を確認するための記録媒体として広く一般に利用されている。また、USBは、意思表示等を保存する記録媒体であるから、証拠として重要性を有する。

 よって、USBに同条の趣旨が妥当するから、同条を適用出来る。

以上