倒産法:56点、上位20%程度
【第1問】
第1 設問1
1 小問(1)
(1)債権②は、「破産手続開始前の原因」であるAC間の売買契約に基づいて生じた財産上の請求権であるから、「破産債権」(破産法(以下、法名省略)2条5項)にあたる。
(2)B社は、債権②を自働債権として、債権①との相殺を主張しているが、かかる主張は以下の理由で認められない。
ア B社がC社から債権②を取得したのは、「破産手続開始」たる令和3年10月25日より「後」の同年11月1日であるからである(72条1項1号)。
イ B社とC社は、グループ会社であって、それぞれA社に対して、継続的に売掛金と買掛金を有していたから、相殺に対する合理的期待を保護すべきであるから、相殺は認められるべきという見解も考えられる。
しかし、B社とC社はあくまで別法人であるから、相殺に関する三者間の特約が存在するなどの特段の事情のない限り、相殺に対する合理的期待は生じず、同号を適用すべきと解する。
本件では、特段の事情は認められず、同号の適用により、相殺は禁止される。
よって、上記主張は認められない。
2 小問(2)
(1)法定代位によって取得した原債権を自働債権として行使する場合
ア 債権②は上記の通り破産債権であり、同債権を法定代位(民法499条、500条)によって、取得したとして、相殺を主張することも考えられる。
もっとも、法定代位による債権の取得は、同年11月1日であって、破産手続開始後だから、72条1項1号により、相殺が禁止される。よって、上記主張は認められない。
(2)求償権として行使する場合
ア 求償権は、破産手続開始前の同年3月1日BC間の保証契約という原因に基づいて生じた財産上の請求権だから、破産債権である。同債権を自働債権とする相殺は認められるか。
イ まず、求償権が発生したのは、同年11月1日における弁済によってである(民法459条1項)。そうすると、B社は、A社の破産手続開始の申立があったことを知った上で、弁済行為をしているといえるから、上記相殺は72条1項4号によって禁止されるとも思える。
ウ もっとも、求償権の取得原因は、上述の通り、同年3月1日の保証契約に基づくものであるから、同条2項2号によって、相殺禁止の適用はされない。
よって、上記相殺は認められる。
3 小問(3)
(1) 小問(2)と同様、求償権による相殺は、同号によって相殺禁止が解除されるため、認められるとも思える。
(2)もっとも、BC間の保証契約は無委託保証契約であるから、相殺が禁止されないか。
ア この点について、72条1項1号の趣旨は、相殺に対する期待が保護するに値しない場合に相殺を禁止する点にある。そして、無委託保証は、破産者の意思によらず相殺適状を作り出す点において、相殺に対する期待は保護に値しないから、同条の類推適用により、相殺は禁止されると解する。
イ 本件において、BC間の保証契約は無委託であり、かつ破産者Aは同契約の存在を全く知らされていなかった。よって、同条類推適用により、相殺は禁止される。
ウ よって、上記相殺は認められない。
第2 設問2
1 小問(1)
(1)Eは、Aの「破産手続開始の時」において、「破産財団に属する」甲土地及び乙建物という財産につき「抵当権」という「別除権」(2条9項)を有している「別除権者」(同条10項)である。
(2)別除権者は、65条1項に基づき、破産手続外で、別除権を行使出来る。もっとも、本問のような事情がある場合には、以下の手続によって、最後配当の手続に参加することが出来る。
ア 108条1項(不足額責任主義)に基づき、不足額分を破産債権者として権利行使することが出来る。
イ 111条1項、2項に基づき、破産債権の届出を裁判所にしなければならない。
ウ 198条3項に基づき、除斥期間内に、同条前段又は後段の証明をしなければならない。具体的には、抵当権の一部抹消登記手続をする必要がある。
2 小問(2)
ア 乙建物の所有者はA自身である一方、甲土地の所有者はDであるから、Dは物上保証人である。
イ そうすると、不足額責任主義(108条1項)の観点から、Eの配当額の基礎となる破産債権額は8000万円-1000万円=7000万円となる。
ウ 既に甲土地の売却代金4000万円について配当を受けており、実体法上の請求額は3000万円となる以上、3000万円を配当額の基礎とすべきという見解も考えられる。
もっとも、104条5項・1項が開始時現存額主義を定めた趣旨は、責任財産を集積させ、給付の実現をより確実にした債権者を保護すべく、実体法上の請求額と配当の計算額との乖離を認めた点にある。
よって、上記の乖離も認められから、7000万円を配当の基礎の計算額とすべきである。
以上
【第2問】
第1 設問1
1 ①について
(1)裁判所は民事再生法(以下、法名省略)33条1項に基づき、再生手続開始決定をすることが出来るか。以下、要件充足を検討する。
(2)問題となり得るのは、25条2号であるから、同号の該当性につき検討する。
ア 本件において、Cの申立により、Aの「破産手続」が係属している。
次に「債権者の一般の利益に適合する」とは、同号の趣旨が、再生手続に協力を強いられる再生債権者の最低限の利益を保護する点にあることから、清算価値を上回ることを意味する(清算価値保障原則)と解する。
イ これを本件についてみる。確かに、事業継続によって得た収益を弁済原資とする再生計画案の作成が検討されている。
しかし、今後も本店での収益は低額にとどまると見込まれるにもかかわらず、収益改善の具体策はない。また、A所有の敷地を更地にして売却すれば、売却代金は再生計画に基づく弁済額よりもはるかに高額となることが期待出来る。
収益改善策を欠く再生計画案より、清算価値の方が、「はるかに高額」になる状況下においては、再生計画は、清算価値を上回るとはいえない。
ウ よって、再生手続は「債権者の一般の利益に適合する」とはいえないから、同号に該当する。
よって、裁判所は、再生手続開始決定をすることが出来ず、棄却をすべきである。
2 ②について
(1)同様に33条1号の要件充足を検討する。
(2)21条1項に該当することについて。
ア 同号は、早目に再生手続に着手することで、最悪の事態を回避すべく、破産手続開始原因となる事実の生じる「おそれ」があれば、開始申立が出来るとしている。
イ 本件では、開始申立日の令和4年5月9日時点で、メインバンクCから弁済猶予を断られ、他の金融機関からもつなぎ融資を断られており、同月末が弁済期日のCへの借入金の返済のめどが立っていない。そうすると、Aは、破産手続開始原因たる「支払不能」(破産法15条1項、2条11項)のおそれがあるといえる。
ウ よって、同項は充足する。
(3)25条各号に該当しないことについて。
ア 1号について。Aは、予納金を納付しているから、同号に該当しない。
イ 2号について。Aの破産手続又は特別清算手続は継続していない。よって、同号に該当しない。
ウ 3号について。
(ア)再生計画案の作成の見込みについて。AはH社への事業譲渡を行って、譲渡代金を弁済原資とするという具体的な再生計画案の作成を検討しているから、再生計画案の作成の見込みがないことが明らかでないとはいえない。
(イ)再生計画案の可決について。
①まず、可決の前提となる付議決定がなされるか検討する。
169条1項1号、2号、4号の該当事情は認められないので、同項3号につき検討する。
174条2項各号の該当について。1号該当事情はない。2号について、再生計画案は具体的であるから、遂行される見込みがないとはいえない。3号について。「不正の方法」、その他信義則に反する事情も認められない。4号について。同号は、清算価値保障原則を定めたものを解するところ、譲渡代金額では、滞納分の税金を払えないから、清算価値の方が高いとも思われる。もっとも、原材料の仕入れルート見直し等の具体策によっては、譲渡代金は増額される見込みもあることから、再生手続によって清算価値を上回る配当も期待出来る。よって、同号にも該当しない。
よって、付議決定がなされる。
②次に可決の要件(172条の3第1項)につき検討する。
J税務署も分納について合意の上、再生手続による再建に理解を示しているから、J税務署は再生計画案に賛成することが見込まれる。よって、同項を充足する。
以上、再生計画案の可決の見込みがないことが明らかでないとはいえない。
(ウ)再生計画の認可について。
上述の通り、174条2項各号に該当する事情はない。
以上、3号には該当しない。
エ 4号について。
担保権の実行手続中止を得るためだけに、申立がなされたなどの事情はないから、同号にも該当しない。
(3)以上、裁判所は、再生開始決定をすることが出来る。
2 設問2
破産手続においては、商事留置権は特別の先取特権とみなされる(破産法66条1項1号)結果、別除権となる。
他方、再生手続ではそれに対応する規定はない。
よって、破産手続において本件取立金を本件債務の弁済に充当は出来るが、再生手続では不可である。
以上