弁護士になって1か月間の感想

かなり、忙しいです。

会社員と異なり、労働時間という概念が余りなく、ずっと働いている感じです。

労働時間と対価が余り、見合ってない気もしますが、一年目(どんな社会でも)はこんな感じでしょうかね。

専門分野をどれに絞ろうか、見定めつつ、ノウハウを蓄積する、ということが当面のターゲットになりそうです。

予備試験論文前 1週間前

この時期、1回目の受験者は、規範がうろ覚えだと思いますので、それを固めることをおすすめします。規範を書けないと、当てはめもできないんでね。

 

2回目の受験者は、一元化したテキストの見直し(眺めるのではなく、思い出しながら、ぶつぶつ言う)、苦手な過去問を潰す、ということにフォーカスすることをおすすめします。

 

手書きの感覚を忘れないためにも、論証を思い出しながら、白紙に書くのもおすすめです。

予備試験短答2か月前

去年、一昨年の今頃は、相当緊張感ある日々を過ごしていました。

今年は、GWをまったりと過ごしております。

 

さて、予備試験短答まで、あと2か月です。

社会人受験生は、もう短答に全振りして、とにかく、過去問を回す、間違った問題を、何度も繰り返す(忘れかけたくらいに復習)、という勉強法に切り替えるのをおススメ致します。

 

論述が心配という方もいるかと思いますが、捕らぬ狸の皮算用です。

まずは、短答合格を目指すべきだと思います。

 

令和4年度司法試験再現答案 倒産法

倒産法:56点、上位20%程度

 

【第1問】

第1 設問1

1 小問(1)

(1)債権②は、「破産手続開始前の原因」であるAC間の売買契約に基づいて生じた財産上の請求権であるから、「破産債権」(破産法(以下、法名省略)2条5項)にあたる。

(2)B社は、債権②を自働債権として、債権①との相殺を主張しているが、かかる主張は以下の理由で認められない。

ア B社がC社から債権②を取得したのは、「破産手続開始」たる令和3年10月25日より「後」の同年11月1日であるからである(72条1項1号)。

イ B社とC社は、グループ会社であって、それぞれA社に対して、継続的に売掛金と買掛金を有していたから、相殺に対する合理的期待を保護すべきであるから、相殺は認められるべきという見解も考えられる。

しかし、B社とC社はあくまで別法人であるから、相殺に関する三者間の特約が存在するなどの特段の事情のない限り、相殺に対する合理的期待は生じず、同号を適用すべきと解する。

本件では、特段の事情は認められず、同号の適用により、相殺は禁止される。

よって、上記主張は認められない。

2 小問(2)

(1)法定代位によって取得した原債権を自働債権として行使する場合

ア 債権②は上記の通り破産債権であり、同債権を法定代位(民法499条、500条)によって、取得したとして、相殺を主張することも考えられる。

 もっとも、法定代位による債権の取得は、同年11月1日であって、破産手続開始後だから、72条1項1号により、相殺が禁止される。よって、上記主張は認められない。

(2)求償権として行使する場合                                                                                                                                       

ア 求償権は、破産手続開始前の同年3月1日BC間の保証契約という原因に基づいて生じた財産上の請求権だから、破産債権である。同債権を自働債権とする相殺は認められるか。

イ まず、求償権が発生したのは、同年11月1日における弁済によってである(民法459条1項)。そうすると、B社は、A社の破産手続開始の申立があったことを知った上で、弁済行為をしているといえるから、上記相殺は72条1項4号によって禁止されるとも思える。

ウ もっとも、求償権の取得原因は、上述の通り、同年3月1日の保証契約に基づくものであるから、同条2項2号によって、相殺禁止の適用はされない。

 よって、上記相殺は認められる。

3 小問(3)

(1) 小問(2)と同様、求償権による相殺は、同号によって相殺禁止が解除されるため、認められるとも思える。

(2)もっとも、BC間の保証契約は無委託保証契約であるから、相殺が禁止されないか。

ア この点について、72条1項1号の趣旨は、相殺に対する期待が保護するに値しない場合に相殺を禁止する点にある。そして、無委託保証は、破産者の意思によらず相殺適状を作り出す点において、相殺に対する期待は保護に値しないから、同条の類推適用により、相殺は禁止されると解する。

イ 本件において、BC間の保証契約は無委託であり、かつ破産者Aは同契約の存在を全く知らされていなかった。よって、同条類推適用により、相殺は禁止される。

ウ よって、上記相殺は認められない。

第2 設問2

1 小問(1)

(1)Eは、Aの「破産手続開始の時」において、「破産財団に属する」甲土地及び乙建物という財産につき「抵当権」という「別除権」(2条9項)を有している「別除権者」(同条10項)である。

(2)別除権者は、65条1項に基づき、破産手続外で、別除権を行使出来る。もっとも、本問のような事情がある場合には、以下の手続によって、最後配当の手続に参加することが出来る。

ア 108条1項(不足額責任主義)に基づき、不足額分を破産債権者として権利行使することが出来る。

イ 111条1項、2項に基づき、破産債権の届出を裁判所にしなければならない。

ウ 198条3項に基づき、除斥期間内に、同条前段又は後段の証明をしなければならない。具体的には、抵当権の一部抹消登記手続をする必要がある。

2 小問(2)

ア 乙建物の所有者はA自身である一方、甲土地の所有者はDであるから、Dは物上保証人である。

イ そうすると、不足額責任主義(108条1項)の観点から、Eの配当額の基礎となる破産債権額は8000万円-1000万円=7000万円となる。

ウ 既に甲土地の売却代金4000万円について配当を受けており、実体法上の請求額は3000万円となる以上、3000万円を配当額の基礎とすべきという見解も考えられる。

 もっとも、104条5項・1項が開始時現存額主義を定めた趣旨は、責任財産を集積させ、給付の実現をより確実にした債権者を保護すべく、実体法上の請求額と配当の計算額との乖離を認めた点にある。

 よって、上記の乖離も認められから、7000万円を配当の基礎の計算額とすべきである。

以上

 

【第2問】

第1 設問1 

1 ①について

(1)裁判所は民事再生法(以下、法名省略)33条1項に基づき、再生手続開始決定をすることが出来るか。以下、要件充足を検討する。

(2)問題となり得るのは、25条2号であるから、同号の該当性につき検討する。

ア 本件において、Cの申立により、Aの「破産手続」が係属している。

次に「債権者の一般の利益に適合する」とは、同号の趣旨が、再生手続に協力を強いられる再生債権者の最低限の利益を保護する点にあることから、清算価値を上回ることを意味する(清算価値保障原則)と解する。

イ これを本件についてみる。確かに、事業継続によって得た収益を弁済原資とする再生計画案の作成が検討されている。

 しかし、今後も本店での収益は低額にとどまると見込まれるにもかかわらず、収益改善の具体策はない。また、A所有の敷地を更地にして売却すれば、売却代金は再生計画に基づく弁済額よりもはるかに高額となることが期待出来る。

 収益改善策を欠く再生計画案より、清算価値の方が、「はるかに高額」になる状況下においては、再生計画は、清算価値を上回るとはいえない。

ウ よって、再生手続は「債権者の一般の利益に適合する」とはいえないから、同号に該当する。

 よって、裁判所は、再生手続開始決定をすることが出来ず、棄却をすべきである。

2 ②について

(1)同様に33条1号の要件充足を検討する。

(2)21条1項に該当することについて。

ア 同号は、早目に再生手続に着手することで、最悪の事態を回避すべく、破産手続開始原因となる事実の生じる「おそれ」があれば、開始申立が出来るとしている。

イ 本件では、開始申立日の令和4年5月9日時点で、メインバンクCから弁済猶予を断られ、他の金融機関からもつなぎ融資を断られており、同月末が弁済期日のCへの借入金の返済のめどが立っていない。そうすると、Aは、破産手続開始原因たる「支払不能」(破産法15条1項、2条11項)のおそれがあるといえる。

ウ よって、同項は充足する。

(3)25条各号に該当しないことについて。

ア 1号について。Aは、予納金を納付しているから、同号に該当しない。

イ 2号について。Aの破産手続又は特別清算手続は継続していない。よって、同号に該当しない。

ウ 3号について。

(ア)再生計画案の作成の見込みについて。AはH社への事業譲渡を行って、譲渡代金を弁済原資とするという具体的な再生計画案の作成を検討しているから、再生計画案の作成の見込みがないことが明らかでないとはいえない。

(イ)再生計画案の可決について。

①まず、可決の前提となる付議決定がなされるか検討する。

169条1項1号、2号、4号の該当事情は認められないので、同項3号につき検討する。

174条2項各号の該当について。1号該当事情はない。2号について、再生計画案は具体的であるから、遂行される見込みがないとはいえない。3号について。「不正の方法」、その他信義則に反する事情も認められない。4号について。同号は、清算価値保障原則を定めたものを解するところ、譲渡代金額では、滞納分の税金を払えないから、清算価値の方が高いとも思われる。もっとも、原材料の仕入れルート見直し等の具体策によっては、譲渡代金は増額される見込みもあることから、再生手続によって清算価値を上回る配当も期待出来る。よって、同号にも該当しない。

よって、付議決定がなされる。

②次に可決の要件(172条の3第1項)につき検討する。

J税務署も分納について合意の上、再生手続による再建に理解を示しているから、J税務署は再生計画案に賛成することが見込まれる。よって、同項を充足する。

以上、再生計画案の可決の見込みがないことが明らかでないとはいえない。

(ウ)再生計画の認可について。

上述の通り、174条2項各号に該当する事情はない。

以上、3号には該当しない。

エ 4号について。

担保権の実行手続中止を得るためだけに、申立がなされたなどの事情はないから、同号にも該当しない。

(3)以上、裁判所は、再生開始決定をすることが出来る。

2 設問2

破産手続においては、商事留置権は特別の先取特権とみなされる(破産法66条1項1号)結果、別除権となる。

他方、再生手続ではそれに対応する規定はない。

よって、破産手続において本件取立金を本件債務の弁済に充当は出来るが、再生手続では不可である。

以上

令和4年度司法試験再現答案 刑事系

刑事系は、130点。100番台。両方Aです。

 

<刑法:3678字>

第1 設問1

1 主張(1)について

ア 主張(1)の根拠

同主張は、「横領」の目的物が「他人の「占有」する物」であり、「占有」とは、委託信任関係に基づくことが必要と解されるところ、窃盗犯との間の委託信任関係でも法的保護に値する「占有」にあたると考え、本件バイクも「「占有」する物」にあたる。

そして、本件バイクに対する「横領」の実行の着手に出れば、未遂規定がない以上、即既遂が成立する、という根拠に基づくものである。

イ 主張の当否

 窃盗犯との間の委託信任関係は法的保護に値せず本件バイクは「占有する物」に当たらないという見解も考えられる。

 もっとも、複雑な現代の経済社会において財産秩序を保護する必要性や、242条との整合性の観点から、窃盗犯との間の委託信任関係も法的保護に値し、その委託に基づければ「占有」に当たると考える。

 本件バイクは、Aからの委託に基づくから「占有する物」に当たる。また、動産については、実行の着手後直ちに既遂となるといえる。よって主張(1)は、妥当である。

2 主張(2)について

ア 主張(2)の根拠

 同主張は、「横領」を不法領得の意思の一切の発現行為をいうと解し、不法領得の意思とは、所有者でなければ出来ない行為を意味すると考えるところ、本件バイクを移動させて隠す行為は、所有者でなければ出来ない行為であるから、同行為は、不法領得の意思の発現行為といえ、「横領した」にあたるという根拠に基づくものである。

イ 主張の当否

 「横領」が不法領得の意思の一切の発現行為であることは妥当であるが、その内容としては、隠匿罪等との区別の観点から、①所有者でなければ出来ないことをするという排除意思に加えて、②経済的用法に従って利用処分する意思も必要と考える。

 本件において、甲が上記行為をとったのは、Aを困らせる目的であって、本件バイクを売却するなどの利用処分意思を有していなかった(②不充足)。

 よって、甲に不法領得の意思は認められず、上記行為は「横領」に当たらないから、上記主張は、不当である。

第2 設問2

1 乙が本件ナイフでAの右上上腕部を強く突き刺した行為に、傷害罪(204条)が成立するか。

(1)乙は、殺傷能力高い刃体18㎝の本件ナイフで、腕を強く突き刺し、Aの生理的機能に障害を生じさせているから、上記行為は「傷害」に当たる。

(2)もっとも、乙は、Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思って、上記行為に出ているから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。正当防衛が成立するためには事実5におけるAが甲に殴打しようとしていた行為(以下、「殴打②」という)が、不正であることが必要である。殴打②は、直前の甲の行為に対するものなので、甲の行為が、不正であって、殴打②が正当防衛となれば、殴打②は不正ではなくなる。そこで、前提として、甲の行為が不正であるか検討する。

ア 甲の行為は、その直前のAの殴打行為(以下「殴打①」という)に対するものであるが、正当防衛が成立するか。

(ア)殴打①によって、甲の生命身体に対する危険が切迫しているから、「急迫不正の侵害」が認められるとも思える。もっとも、36条1項の趣旨は、公的機関への法的保護を期待出来ない緊急状況下において、例外的に私人による例外措置を認めた点にある。そこで、侵害の予想の程度や、現場に出向く必要性等、行為全般の状況に照らし、上記緊急状況といえない場合には、同項の趣旨は妥当せず、「急迫」性は認められないと考える。

(イ)本件において、甲は高校時代にAと同じ不良グループに所属しており、Aが短気で粗暴な性格であり、過去に暴力沙汰を起こしていることを知っているという関係性が有り、Aの前に姿を現せばAから暴力を振るわれる可能性が極めて高いことを予測していた。そうすると、甲はAの呼び出しに応じることなく、自宅で待機するか、警察に通報するなどすべきであったのに、自らの意思で、本件包丁を持参の上で、わざわざ現場に出向いている。そして、当初の予想通り、Aが殴打①に出たところで、本件包丁を突き出すという上記行為に及んでいる。よって、甲の行為は、上記緊急状況下とは言えず、同項の趣旨は妥当しないから「急迫」性は認められない。

(ウ)よって、甲の行為は正当防衛ではないから、不正の行為である。

イ では、殴打②に正当防衛が成立するか。

(ア)上記の通り、甲の行為は「不正」であり、また、Aの生命身体に対する危険が切迫しているから「急迫」性もある。

(イ)Aは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを単純に避けようとしているから防衛の意思も認められる。

(ウ)「やむを得ずにした」とは防衛手段として必要最小限度の行為を意味すると考えるところ、Aは、甲が本件ナイフという武器を持ち出しているのに対し、素手で反撃しようとしているから、上記行為は防衛手段として必要最小限度といえる。

(エ)そうだとしても、甲の行為は、殴打①によって招いた自招侵害にあたれば、社会的相当性を欠くため、正当防衛は成立しないと考える。そして、自招侵害とは、①自己の先行行為に触発された直後の近接した場所での行為であり、②相手方の行為の侵害の程度が、自己の先行行為の侵害の程度を大きく超えないものを言うと考える。

 本件において、殴打①は素手での攻撃であったのに対し、甲は本件ナイフという殺傷能力の高い武器を持ち出しているから、甲の行為の侵害の程度は、殴打①の侵害の程度を大きく超えるといえる(②不充足)。よって、自招侵害ではない。

(オ)以上、殴打②に正当防衛が成立し、違法性が阻却される。

ウ よって、殴打②は、正だから、これに対する乙の行為に正当防衛は成立しない。

(3)では、正対正の緊急避難(37条1項)は成立するか。

ア 「他人」たる甲の生命身体に現在の危難が認められる。

イ 乙に避難の意思も認められる。

ウ 「やむを得ずにした」といえるか。乙は、素手のAに対して、本件ナイフをいきなり突き刺している。まずは本件ナイフを使って、Aを脅すことをすべきであったから、避難手段として必要最小限度の行為とは言えず、「やむを得ずにした」とは言えない。

エ よって、緊急避難は成立しない。

(4)そうだとしても、誤想防衛が成立し、違法性阻却事由を基礎付ける事実に錯誤があったとして、責任故意が阻却されないか。乙の主観を基準に、正当防衛が成立するか検討する。

ア 乙は、甲が本件包丁を持っていることを認識しておらず、Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていたと思い込んでいたから、乙の主観を基準とすれば、「急迫不正の侵害」が認められる。

イ 乙は、甲を助けるために、上記行為に出ているので、防衛の意思が認められる。

ウ 「やむを得ずにした」といえるか。乙の主観を基準にしても、甲と乙対Aという2対1でかつ各人に体格差はなかったのだから、本件ナイフをいきなり突き刺すことはなく、本件ナイフで脅すべきだったといえる。そうすると、乙は過剰性を認識していたといるから、上記行為は乙の主観を基準にしても「やむを得ずにした」とは言えない。

エ よって、誤想防衛も成立しない。

(5)よって、上記行為に傷害罪が成立する。もっとも、乙は、甲の状況により狼狽したため、上記行為に出たといえ、責任非難が減少するから、過剰防衛(36条2項)が成立し、刑の任意的減免を受ける。

2 乙が本件原付を発進させた行為に窃盗罪(235条)が成立するか。

(1)ア 本件原付は、Dの所有物だから「他人の財物」にあたる。

イ「窃取」とは、占有者の意思に反して、自己又は第三者に物の占有を移転することを言うと解する。上記行為時点で、Dは、本件原付の付近におらず、マンション内にいたのであるからDに占有が認められないと思える。もっとも、Dは、配達のため、本件原付のすぐ近くのマンションにいたに過ぎず、また、一時的に離れているに過ぎなかったから、Dに占有の事実と意思が認められる。よって、上記行為は「窃取」にあたる。

ウ 構成要件的故意も認められる。

エ 不法領得の意思も認められる。なぜなら、乙は、本件原付を返還する意思はないから、権利者排除意思が有り、また、本件原付に乗って移動するという利用処分意思も認められるからである。

(2)そうだとしても、緊急避難が成立しないか。

ア 乙は、暴行の意思が旺盛なAから追いかけられており、乙の生命身体に対する危難が認められる。

イ 乙に避難の意思が認められる。

ウ Aは乙より足が速く、Aの追跡を逃れて危難から脱するためには本件原付で逃げることが唯一の取り得る手段だったのだから「やむを得ずにした」といえる。

エ 乙が避けようとした害は生命身体についてのものである一方、生じた害は財産的な原付の一時使用という損害であるから、法益の権衡もある。

よって、緊急避難が成立し、上記行為に犯罪は成立しない。

なお、第2の1においては、乙と甲は因果性を及ぼし合っていないので、片面的共同正犯は検討せず、客観的に正当防衛は成立しないので、片面的幇助犯も検討していない。

以上

 

<刑訴:3256字>

第1 設問1

1(1)【事例1】記載の捜査手法は、捜査機関又はその協力者が、その意図や身分を秘して相手方に犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところを現行犯逮捕する捜査手法たるおとり捜査であるところ、おとり捜査が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下、法名省略)197条1項ただし書)に当たれば、無令状で行われた同捜査は、令状主義に反し違法となる。そこで、「強制の処分」の意義が問題となる。

(2)法が「強制の処分」に関する厳格な要件・手続を定めていることから、「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反し(①)、相手方の重要な権利利益を実質的に制約する処分(②)をいうと考える。

(3)本件において、侵害される権利としては、犯罪を実行するか否かの意思決定の自由が想定されるが、かかる自由は法的保護に値するとは言えず、重要な権利利益とは言えない(①不充足)。よって、おとり捜査は、「強制の処分」には当たらず、任意捜査として適法になし得る。

2 そうだとしても、何らかの権利利益を制約し得る以上は、任意捜査として無制約に許されるものではなく、比例捜査の原則(197条1項本文)の観点から、必要性・緊急性という具体的状況の下、相当な範囲のみで認められると考える。これを本件についてみる。

(1)令和3年11月23日において100gの大麻を譲り受けた取引までの捜査について

ア 必要性について。本件の被疑事件は大掛かりな大麻密売事件であり、密行性が高く、組織的な犯行も疑われる重大な事件であった。そして主犯格と思われる甲の所在が掴めなかったところ、Pは、大麻所持の罪で服役し出所したAから、甲が主犯格であるとの情報を得ている。Aの供述の具体性、その後のPらの裏付け捜査から、Aの証言は信用性が高いといえる。そうすると、甲に対する嫌疑の程度は相当程度高いといえる。よって、上記捜査を取る必要性は高かったといえる。

イ 相当性について。Pらは、嫌がる甲に対して、密売を働きかけ、安全な場所の提供も申し出ているから、意思決定の自由が制約されているとも思える。もっとも、大麻の取引において、安全な場所を提供することは通常の取引の範囲内といえるし、そもそも犯罪行為についての意思決定の自由は、要保護性が低い。よって、高い必要性の下では、上記捜査は、相当なものといえる。よって、任意捜査として適法である。

(2)同月25日において10㎏の大麻を譲り受けた取引までの捜査について

ア 必要性について。確かに、上記100gを取引した時点で現行犯逮捕出来たのであるから、10㎏の大麻を取引する必要性は低かったとも思える。しかし、上述の必要性に加えて、大掛かりな大麻密売の全容を解明するためには、甲が、100gという少量の大麻を取引出来るというだけでは足りず、5㎏~10㎏という多量の大麻を取引出来るという事実が必要であった。よって、上記捜査を取る必要性は高かったといえる。

イ 相当性について。Pらは、嫌がる甲に対して、有利な価格・数量を提示するなど執拗な働きかけをしており、また、100gの取引時でも逮捕出来た以上、司法の廉潔性の観点から妥当ではなく、相当性を欠くという見解も考えられる。もっとも、大麻取引において交渉材料として有利な価格や数量を提示することは通常のことといえる。また、甲が取引に応じたくないのであれば、交渉を拒否すればよかったのであり、最終的には自らの意思で取引に応じているから、執拗な働きかけがあったとまではいえない。さらに、大掛かりな大麻密売事件の全容を解明するための必要な捜査手法であったことが国民にも分かれば、司法の廉潔性を損なうこともない。よって、上記捜査は、高い必要性の下、相当のものといえる。よって、上記捜査は、任意捜査として適法である。

第2 設問2

1 小問1

(1)資料1の公訴事実では放火の実行行為として「点火した石油ストーブで火を放ち」と摘示されているのに対して、資料2では「何らかの方法で火を放ち」と認定されているところ、訴因の変更なしになされた同事実認定は不告不理(378条3号)に反し、許されないのではないか。訴因変更の要否の基準が問題となる。

(2)ア この点について、当事者主義的訴訟構造において、審判対象は訴因であるところ、訴因の事実に変化があれば、訴因変更をするのが望ましい。もっとも、些細な事実の変化にまで、常に訴因変更が必要となると実際的ではない。そこで、訴因の一次的機能が、裁判所に対して審判対象を確定する機能(識別機能)にあり、補完的機能として防御機能に有ることから、①審判対象の確定のために不可欠な事実の変化であれば、訴因変更が必要であり、②そうではなくとも、被告人の防御にとって一般的に不利益な事実の変化については、原則、変更が必要 ③その例外として、具体的審理経過に照らし、被告人にとってより不利益とならず、不意打ちにならなければ、変更は不要と考える。以下、これを本件についてみる。

イ ①について。上記事実の変化は、同一構成要件内のもので、実行行為の日時・場所・対象物などに変化はない。また実行行為の態様としては、灯油をまいた上で、放火をしたということには変化はなく、詳細な放火方法については、審判対象確定のために不可欠な事実とはいえない。

②について。そうだとしても、一般的に、放火行為という実行行為の具体的態様が変化することは、犯人性等を争うために、被告人の防御にとって、不利益な事実の変化といえるから、原則として訴因変更が原則必要である。

③について。本件の公判において、放火はしていないと主張する被告人に対して、専門家の証人尋問が実施され、同人は裁判所の補充尋問に対して「可燃物に火をつけて散布された党友に着火させることも可能」という証言をしている。被告人らは、これに対して、その「可燃物」とはどういう物の可能性があり、それを被告人が所持していたのか、等を主張することで、犯人性を争う等の防御活動をすることが出来たといえる。それにもかかわらず、裁判所からの放火態様についての追加の立証予定の質問に対して、その予定はないとの回答をするに留まっているから、「何らかの方法で」と認定しても、被告人にとって不意打ちとはならない。また、同事実の変化は、構成要件が変化する訳ではなく、罪状も変化する訳でもないから、被告人にとってより不利益ともならない。よって、例外的に訴因変更は不要である。よって、資料2の事実認定は許される。

2 小問2

(1)資料3の通りの事実を罪となるべき事実として認定することは許されるか。その前提として、共謀の成立日が令和3年11月1日であると検察官の求釈明に対する説明が、訴因の変更にあたり、訴因の内容となっているのかを、まず検討する。

(2)ア この点について、法が、訴因変更につき厳格な手続を定めている趣旨から、求釈明の内容が審判対象確定にとって不可欠な事実についてのものである場合にのみ、かかる求釈明の内容が訴因の内容になると考える。

 イ 実行行為が日時・場所・対象物によって識別されている本件においては、共謀の成立日は、審判対象確定にとって不可欠な事実ではないから、求釈明に対する内容は、訴因の内容にはならないといえる。

(3)そうすると、共謀の成立日は訴因となっておらず、共謀の成立日を同年2日と認定することには訴因変更は不要である。

(4)ア そうだとしても、本件において、共謀の成立日が、被告人の防御権の実質を保障する争点となっていれば、争点顕在化措置をとらずに、同日を認定することは、被告人にとって不意打ちとなり違法となると考える。

イ これを本件についてみる。被告人らは、共謀の成立日を同月1日であったとして、アリバイの主張をするなどして、防御活動をしていたから、共謀の成立日は、争点になっていたといえる。

ウ よって、争点顕在化措置をとらずに共謀の成立日を同月2日と認定することは、違法(294条)であり、許されない。

以上