令和4年度司法試験再現答案 公法系

参考までに、上げます。前年度の過去問を起案する人は、出題可能性の観点から、あまりいないと思いますが、レベル感を把握するという点では意味あるかと思いますので。

 

公法系は、120点、300番台。憲法行政法もA評価。

 

憲法:3018字>

第1 設問1

1 決定①について

(1)研究助成金の交付は請求権であって、憲法上保障された人権ではない。よって、助成の趣旨に適合しないことを理由に不交付を決定した決定①は、何ら憲法上の問題は生じない。

(2)仮に、Yの助成金の交付が憲法上保障されているとしても、YはX大学の教授であるから、交付金の決定については、大学の自治に基づくGの包括的権能による制約を受けることとなる。決定①は、以下の通り、包括的な裁量の範囲内のものであり、憲法上の問題は生じない。

ア 助成金の財源は税金であり、財源の面から制約を受ける権利である。また、助成金の交付は、学問の自由(憲法23条)に資するものであるが、不交付決定がなされたからといって、助成対象以外の学問の自由については何ら制約を与えるものではないから、規制態様は強度ではない。

イ そこで、Xには助成金交付の決定については、広い裁量権が認められ、不決定が著しく合理性を欠く場合にのみ、かかる決定は、学問の自由を侵害し違憲になると解する。

ウ 本件において、Yは過去の交付金を「Y研究室」の運営等に3分の2以上支出されているところ、「Y研究室」では、Yの政治的発言表明やCの活動のために利用されており、また、交付金を利用した出張時において、講演活動を行っていた。助成の趣旨が、地域経済の振興に貢献する研究の推進であることからすれば、かかる個人に政治的な活動は、同趣旨は妥当しない。よって、助成の趣旨に反するYの研究に不交付決定したことは合理性があって、著しく合理性を欠くとはいない。以上、決定①は裁量権の範囲内である。

2 決定②について

(1)決定②は、教育の内容、方法についてのもので、大学の自治のもと、学長に広範な裁量が認められる。また、決定②によって、一部の生徒は、大学を卒業できなくなるという重大な不利益を被っているから、そのような不利益を避けるためにも、広範な裁量が認められる。そこで、裁量の行使が著しく合理性を欠く場合にのみ、決定②は憲法上の問題が生じると解する。

(2)本件において、成績評価が著しく不公正であるという異議申立の下、調査した結果、客観的な事実として、Yの個人的活動団体であるCに加入した者の成績がいずれも最高評価を得ている一方、ブックレットを批判した者の多くが不合格となっていることが判明している。そうすると、Yは成績評価を、個人的な政治思想に基づいて恣意的になされたものといえ、これを是正するためにとった決定②は、合理的な裁量権行使である。

(3)よって、決定②は何ら憲法上の問題は生じない。

第2 設問2

1 決定①について

(1)Yからの反論

ア 交付金は、過去から継続的になされていたものであって既得権になっているといえる。また、学問の自由(憲法23条)には、研究の自由も含まれるところ、研究にとって必要不可欠となる交付金を受け取る自由は憲法上保障されているといえる。

イ そもそも、学問の自由を保障するために大学の自治が認められるところ、大学の自治を理由に学問の自由を制約することは背理であって認められない。

決定①によって、Yが行っていた研究活動が出来なくなっているから、決定①は、研究の自由そのものを制約するものであって、規制態様は強度である。また、批判的な性格故に、国家権力から制約を受けることの多い学問の自由は特に保護すべき重要な権利といえる。

そこで、Xの裁量権の範囲は狭く、助成の趣旨に反することが明白でないにもかかわらず、不交付決定がなされれば、裁量権の逸脱濫用となり、決定①は違憲になると解する。

ウ 本件において、Yの行っていた政治的発言は、環境保護と両立する地域経済振興を目指すものであるから、助成の趣旨に合致している。また、講演活動自体は、無報酬で行ったものであって、その内容も環境保護の観点から産業政策を批判したものであって、助成の趣旨に反するものではない。よって、決定①は、裁量権の逸脱濫用にあたり、違憲である。

(2)私見

ア Yの意見に加えて、他の研究員について不交付決定がなされた実績がなく、平等原則の観点からも、交付金を受ける自由(「自由①」という)は学問の自由として保障される。

イ では決定①はXの裁量権の逸脱濫用に当たり意見とならないか。

(ア) 自由①は、Yの通り、批判的性格故、特に保護すべきと考える。そして、批判的な研究内容によって、社会的政策が多角的に検討をされ、よりよい政策決定をすることが出来るというメリットもある。よって、自由①は重要な権利である。他方、財源の観点から制約の必要性が内在する権利でもある。

(イ)制約の態様について、Yの意見の通りである。Xの意見については、制約の対象が研究活動の一部分であるといっても、Yの主要な研究分野が地域経済の振興に関するものであるから、かかる研究活動に対する制約はYの活動の中心的なものであるから、制約は強度である。

(ウ)そこで、Xの裁量は狭く解すべきである。

ウ 本件において、政治的な意見表明があったことは認められるが、それは、研究対象の地域経済の振興についての政治的意見である。研究した内容を、社会で実践していくことも研究の目的に含まれると考える以上、研究活動の一環として政治的発言を伴うのも当然といえる。また、Yの政治的意見は、環境を犠牲にした産業振興を批判しているのであって、環境と両立した産業振興を達成できれば、むしろ、他の地域と差別化を図ることが出来、企業誘致にも資するから、地域経済の振興に貢献出来る。さらに、講演活動は、無報酬であり、営利目的ではなく、その講演内容は、やはり地域経済に関するものだったといえる。そうすと、Yの助成金の支出実績は、助成の趣旨に合致するものであって、これを趣旨に反するとして、不交付決定をしたXに裁量権の逸脱濫用が認められる。

エ よって、決定①は違憲である。

2 決定②について

(1)Yからの反論

ア 教授の自由の一環として、教授内容の決定や、評価方法の決定についても含まれるから、教授内容の決定や評価方法の決定の自由(以下「自由②という」)は、学問の自由として保障される。

イ 大学の自治を理由に、学問の自由を制約することは背理であるから、正当化されない。また、高校までとは異なり、教員にも広い裁量が認められる。そこで、大学側の裁量は狭いと解される。

ウ 本件において、成績評価は客観的な指標に基づいてなされたものであり、また、授業評価アンケートでは、6割以上の学生が高評価をしているから、Yの成績評価を取消したことは、大学の裁量権の逸脱濫用にあたり、学問の自由を侵害する決定②は違憲である。

(2)私見

ア 評価方法等の決定の自由が学問の自由として保障されるのはY主張の通りである。

イ 次に、成績評価は、特定の一授業に関するものであるから、卒業出来ないのは、それのみが原因とはいえず、生徒に多大な不利益を生じさせるものとまではいえない。そこで、大学の裁量は狭いと解する。

ウ 本件で、成績分布が上述の通りとなったのは、恣意的な因果関係によるものではなく、相関関係にあるに過ぎない。また、ブックレットに批判的な者の成績が低評価にとどまったのは、十分な理由を示さなかったという客観的基準に基づくものである。よって、Yの成績評価はYの裁量権の範囲内にあり、これを取消した決定②はXの裁量権の逸脱濫用が認められ、違憲である。

以上

 

行政法:3869字>

第1 設問1(1)

1 E及びFは、本件申請に係る許可(以下、「本件許可」という)の取消を求めるにつき、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下、「行訴法」という)9条1項)として原告適格を有するか。

2 「法律上の利益を有する者」とは、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと考える。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに留めず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含むと解される場合には、かかる利益もここで言う法律上保護された利益に当たると考える。E及びFは、本件許可の名宛人ではないので、以下同法9条2項に従って検討する。

3 (1)Eについて

ア Eは、本件許可によって本件計画が実行されることで、発生の蓋然性が高まる、本件沢からの溢水等の災害によって、自己が所有する所有林という財産権が侵害されない自由(以下、「自由①」という)が侵害されると主張することが考えられる。では本件許可の根拠法規たる法10条の2は、自由①を個別的利益として保護する趣旨を含むか。

イ 同条2項は、不許可要件として、「土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(1号)、「水害を発生させるおそれがあること」(1号の2)を明示している。また、同条の委任を受け、根拠法規となる規則4条では、開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意書類(2号)の提出を義務付けることで、権利を害される関係者に手続保障を与えている。そうすると、根拠法規は、少なくとも本件沢からの溢水による災害によって、財産権を侵害されない自由を一般的公益としては保護する趣旨を含むと解さられる。

 そして、自由①は、本件沢に近接すればする程甚大な被害が生じるという性質を有する。また、本件沢からの土砂が林地に流出すると、立木の育成に悪影響を与える。立木の育成には相当に長い年月を要することを踏まえれば、かかる被害は、事後回復が著しく困難なものといえる。

 そこで、根拠法規は、本件沢からの溢水によって、財産権に直接甚大な損害を受ける者の利益を個別利益として保護する趣旨を含むと解する。

ウ 本件において、Eの所有林は、本件開発区域内にあって、本件沢が通過しているから、溢水による災害の震源地内に存する。そして、Eは、過去の集中豪雨によって本件沢からの溢水によって、立木の育成に悪影響を受けている。本件計画によって、以前より保水力の低下することとなる同区域内において、このような災害が発生する蓋然性は一段と高まっているといえる。そうすると、Eの所有林は、発生の蓋然性が高まっている本件沢からの溢水によって、直接甚大な損害を受けることとなる。

 よって、Eに原告適格は認められる。

(2)Fについて

ア (ア) Fは、本件許可によって、本件沢からの溢水等の災害によって、生命身体を害されない自由(以下、「自由②」という)が侵害されると主張することが考えられる。では、根拠法規が、自由②を個別的利益として保護する趣旨を含むか。

(イ) 同条2項は、不許可要件として、「土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(1号)、「水害を発生させるおそれがあること」(1号の2)を明示している。   

そして、生命身体の利益は、金銭による事後回復が不可能という性質のものである。また、本件沢に近接すればするする程、生命身体に対する損害は甚大なものとなる。

そこで、根拠法規は、本件沢による溢水災害によって、生命身体に甚大な被害を受ける者の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むと解する。

(ウ) Fは、本件開発区域の外縁から僅か200mに居住しており、かつ同場所は、溢水による被害が甚大となる下流部である。よって、Fは、本件許可によって、生命身体に甚大な被害を受ける者といえ、原告適格が認められる。

イ (ア)また、Fは、本件許可によって、生活用水や飲料水などの水源の確保を侵害されない自由(以下、「自由③」という)を侵害されると主張することが考えられる。以下、同様に検討する。

(イ)法10条の2第2項2号は、「水の確保」に著しい支障を及ぼすおそれがあることを不許可条件としている。また、本件許可基準は、行政規則であって法的拘束力はないものの、B県によって公表の上運用されていることから、法の合理的な解釈指針となると考えるところ、基準第4において、「必要な水量を確保」するための適切な措置を講ずることを義務付けている。

 次に、水は、生活用水等として、日常的に反復継続して使用するものであるから、十分な水量を確保出来ないと日常生活に著しい損害を生じさせる。

 そこで、根拠法規は、日常的に、本件沢を水源として生活用水を利用する者の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むと解する。

(ウ)Fは、本件沢の水を飲料水や生活用水として日常的に利用している。そして、本件計画によって山林の保水力の低下も見込まれるから、Fは、日常の生活用水等を安定して利用出来なくという著しい損害を受ける者といえる。よって、Fに原告適格が認められる。

第2 設問1(2)

(1)本問において、Fに本件許可を取消す必要性たる訴えの利益が認められるか。具体的には、Fに、回復すべき法律上の利益及び除去すべき法的効果が有るかを検討する。

(2)ア まず、開発許可の法的効果を検討するに、開発許可を受けずに開発行為をした場合には、開発行為の中止命令や復旧命令が発出されうるという効果がある(法10条の3)。もっとも、本件開発行為の完了後に、かかる監督処分を発出する上で、本件許可が法的障害になっている訳ではなく、また、本件許可を取消したことによって、監督処分が発出される制度設計ではない。よって、Fに本件許可を取消すことによって除去すべき法的効果は認められない。

イ 法206条によって、本件許可が取消されれば、開発行為をした者であるAには懲役や罰金が課される可能性があるが、かかる効果は、一般的な公益であって、F個別の法律上の利益とはいえない。

(3)以上、Fに訴えの利益は認めらない。

第3 設問2

1 (1)Fは、本件許可に際し、所有林面積の割合を考慮要素としなかったことに考慮不尽があり、判断過程において重要な事実の基礎を欠き、社会通念上著しく妥当性を欠くから、B県知事の裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)にあたり違法であると主張すべきである。

 まず、開発許可につきB県知事の裁量は認められる。なぜなら、法10条の2の許可要件は、概括的な文言であり、かつその該当性判断にあたっては、技術的・専門的な判断、土地の性質という地域の特殊性に応じた判断が必要となるからである。

 次に、開発許可にあたり、知事は、不許可要件である災害を発生させるおそれ(法10条の2第2項1号)の有無等を考慮しなければならない。そのためには、災害の根本原因を突き止め、その原因が生じることを未然に防ぐことが重要である。開発行為による災害の典型例は、水害であるが、水害の根本原因は、森林伐採によって森林の保水力が低下することである。そうすると、災害発生の根本原因となる、開発計画によって、元々あった所有林がどの程度伐採され、保水力が低下することになるのかが、災害防止の観点からは重要であり、よって所有林面積割合が開発許可にあたっては重要な考慮要素となる。

 それにもかかわらず、所有林面積割合を考慮せずに、本件許可の判断をしたことは、考慮不尽であって、裁量権の逸脱・濫用があるから、違法である。

(2)これに対して、B県は、許可基準第1-1-①で、利害関係者の同意を義務付けているから、考慮不尽には当たらないと反論することが考えられる。すなわち、利害関係者は、所有林面積割合を認識し、災害の発生の蓋然性を考慮した上で、同意不同意を決定するのだから、同基準において、所有林面積割合も考慮要素に含まれているといえるからである。

2 (1)Fは、本件認定が適法になされている以上、本件許可は、基準第1-1-②の「法令等による土地の使用に関する制限等」に抵触するから、基準を充足せず、違法であると主張すべきである。

 本件認定は、本件計画によって水源の確保が不十分になるおそれが認められるため、市の「水道水源を保護」(条例1条)するという正当な目的のためになされたものであるから、適法である。

(2)これに対して、B県は、本件認定はC市による不当な動機・目的によってなされたものであり、違法で取り消されるべきであるから、本件許可基準第1-1-②に適合し、本件許可は適法であると反論すべきである。

 すなわち、本件認定は、C市長が、本件計画の阻止するためだけに狙い打ちをしたものである。また、Aの本件計画を知ったC市がその直後に手続をしていることからも、水道水源を保護する目的ではなく、本件認定は、不当な動機・目的によってなされたものといえる。

3 (1)Fは、本件貯水池の容量が少なく、生活用水に不足が生じることから、法10条の2第2項2号及び基準第4-1に不適合であると主張することが考えられる。

(2)これに対して、Bは、同基準については、技術的な判断が必要であり、また、予算の制約があることから要件裁量が認められ、Fの主張する容量の確保は技術的に難しく、費用が掛かりすぎるため、本件貯水池でも、同基準を充足し、違法ではないと反論すべきである。

以上